我々はこれまでに坐骨神経部分結紮モデルマウスを用いて、脂肪細胞由来レプチンが神経障害性疼痛の形成を促進することを報告した。そのレプチンシグナルの上流には、HMGB1が位置し、脂肪細胞位にはたらくことによりレプチン産生を亢進するという仮説を提示し、その検証を行ってきた。その結果、坐骨神経に分布するシュワン細胞からHMGB1が神経損傷時より遊離されること、HMGB1がレプチンシグナルを介して神経障害性疼痛を生じることを明らかにした。さらに、坐骨神経部分結紮のモデルをシュワン細胞の細胞株を用いた培養実験系における検討により、圧刺激がHMGB1を遊離することも明らかにした。しかし、HMGB1がレプチン遺伝子の転写レベルに作用するか否かは明らかではない。本研究では、はじめに、脂肪細胞の細胞株3T3-L1を用いて、HMGB1刺激によるレプチン産生・遊離を惹起する実験系を構築した。3T3-L1細胞を常法に従い、前駆細胞から成熟型へ分化させた後、HMGB1を培養液中に添加したところ、培養液中のレプチン濃度の上昇がELISA法により確認された。同様の刺激後、同細胞を回収してRT-PCRを行ったところ、レプチンmRNAの発現上昇が確認された。レプチン遺伝子プロモーター領域には転写因子であるC/EBP-αが結合し、転写を亢進することが報告されている。そこで、3T3-L1細胞におけるレプチン遺伝子プロモーター領域へのC/EBP-α結合活性におよぼすHMGB1の影響をクロマチン免疫沈降法により検討した。その結果、HMGB1添加により、C/EBP-αの結合活性の上昇がみとめられた。以上の成績は、坐骨神経部分結紮誘発神経障害性疼痛には、初期メディエーターとしてHMGB1がシュワン細胞から遊離された後、脂肪細胞において、レプチン産生が亢進する可能性、すなわちHMGB1-レプチンのシグナル連携を示唆する。
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