アストロサイトによる空間的K+緩衝機能を仲介する内向き整流性K+チャネルKir4.1に着目し、その“てんかん病態”における発現変動を各種モデル動物を用いて解析し、以下の結果を得た。 (1) 全般性強直間代(GTC)発作モデルであるNoda epileptic ratにおいて、Kir4.1チャネルの発現が扁桃核で部位特異的に低下していること、特に、アストロサイトの終足部で発現低下していることを明らかにした。さらに、Kir4.1発現が低下した扁桃核では顕著な神経興奮(Fos蛋白発現)が確認された。これらの結果から、扁桃核のアストロサイトKir4.1チャネルが強直間代発作の発現に重要な役割を担っていることを明らかとなった。 (2) 欠神発作モデルであるGroggy ratを用い、脳10部位におけるKir4.1発現をWestern blot解析した。その結果、いずれの部位においてもKir4.1発現に変化は認められず、欠神発作の発現におけるKir4.1の関与は低いと考えられた。 (3) 複雑部分発作モデルのpilocarpine誘発側頭葉てんかんモデルおよびpentylenetetrazole誘発キンドリングモデルにおいて、Kir4.1発現の変動を解析した。その結果、両モデルにおいて、扁桃核、梨状葉皮質など辺縁系部位のアストロサイトでKir4.1発現が特異的に上昇しており、Kir4.1チャネルがてんかん発作の発症・進展を抑制制御している可能性が示された。 (4) 各種抗てんかん薬のうち、GTC発作を抑制する薬物が扁桃核、海馬におけるKir4.1発現を特異的に上昇することが示された。 以上、アストロサイトに局在するKir4.1チャネルがてんかん治療の新たな標的分子として有望であり、Kir4.1チャネルの活性化薬あるいはKir4.1発現を誘導する薬物が新たな抗てんかん薬となりうることが示された。
|