リゾホスファチジン酸(LPA)は、Gタンパク質共役型受容体を介して多彩な細胞の機能を調節すると共に、炎症性疾患の病態形成とも密接に関連するシグナル分子の一つである。関節リウマチ(RA)では、炎症性刺激を受けた滑膜細胞(SC)でCOX-2の発現が亢進して、滑膜組織での血管透過性や関節痛が増大し、関節破壊が進行する。血液や関節滑液に含まれるLPAは、IL-1などの炎症性サイトカインと共に、この一連の反応を相乗的に増幅することを我々は見出している。本研究では、LPA受容体を介する細胞応答がRAの病態形成に及ぼす影響を明らかにする目的で、RASCと正常SCを用いて、(1)RASCの炎症応答に関与するLPA受容体の性質、(2)LPA受容体を介する細胞内シグナル伝達機構の解析、(3)LPA受容体サブタイプに対するモノクローナル抗体(MAb)の作製、について検討した。その結果、非炎症性の正常SCは、RASCの場合とは異なり、LPAで刺激してもCOX-2発現は誘導されず、両細胞間での応答に相違が見られた。また、炎症反応が進行する酸性条件下では、LPA受容体サブタイプのLPA2とプロトン感知性受容体OGR1がクロストークし、MAPキナーゼ系を介する経路でCOX-2やアグリカナーゼの発現が誘導されることを見出した。生理的条件下でこの反応に関与するLPA受容体サブタイプはLPA1であるが、LPA1をノックダウンしたRASCでLPA3の発現が増大する場合にはLPA3を介して起きることから、細胞の環境の変化によって関与するLPA受容体のサブタイプとシグナル伝達経路が変化する可能性が示された。この点については、これまでに作製したLPA1ペプチドに特異的なMAbや、今回新たに作製したLPA3ペプチドに特異的なMAbを用いて、LPA受容体の局在性と併せてさらに解析中である。
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