ヒトの癌部位及び癌細胞で発現上昇し、癌マーカーとして注目される、3種類のヒドロキシステロイド脱水素酵素(3α- HSD 2型、17α- HSDと20α- HSD)、アルドース還元酵素(AR)及びAR類似酵素(AKR1B10)を標的にした新規な制癌剤の開発を最終目的として、今年度は以下の6点について研究を行った。 (1) 20α- HSD阻害剤:3- bromo- 5- phenyl- salicylic acidをリードとして、より特異的かつ強力な阻害能を持つ誘導体を設計・合成し、その酵素との複合体の結晶構造も明らかにした。 (2) 3α- HSD 2型阻害剤:強い阻害剤として抗炎症薬のトルフェナム酸、また高選択的阻害剤としてシンナム酸誘導体を見出した。両者の本酵素へのドッキングモデルとアミノ酸置換法により、それぞれの阻害剤結合に重要なアミノ酸を明らかにした。 (3) 17α- HSD阻害剤:本酵素は、胆汁酸を基質にし、その類似構造であるコラン酸により極めて強く阻害されることが明らかになった。上記酵素と同様に、阻害剤結合に重要なアミノ酸を明らかにした。 (4) AR阻害剤:ARを阻害するアルカロイドをリードとして、新規な選択的AR阻害剤が合成できた。 (5) AKR1B10阻害剤:植物成分トリテルペノイドのオレアノール酸およびカフェ酸エステルが本酵素の選択的阻害剤であることを見出し、上記酵素と同様に、阻害剤結合に重要なアミノ酸を明らかにした。 (6) 培養細胞における各阻害剤の評価系の確立:上記5種うち、20α- HSD、 3α- HSD2型およびAKR1B10の酵素の安定過剰発現細胞株を作製し、現在、さらに高発現株を選別している。また、抗癌剤マイトマイシンCに対する耐性獲得株でAKR1B10発現上昇し、その阻害剤添加により耐性が抑制されることを認めた。他のタイプの抗癌剤(抗生物質、白金製剤、メトトレキセート、フルオロウラシル)の耐性細胞は解析を継続している。
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