ヒトの癌部位及び癌細胞で発現上昇し、癌マーカーとして注目されてきた、2種類のヒドロキシステロイド脱水素酵素(AKR1C1とAKR1C3)、アルドース還元酵素(AR)及びAR類似酵素(AKR1B10)を標的にした新規な制癌剤の開発を最終目的として、今年度は以下の4点を研究した。 1.阻害剤の探索・創製。 (1) AKR1C1阻害剤:前年度に得られたサリチル酸誘導体阻害剤について、さらにADMEを考慮した誘導体を種々合成したが、阻害選択性と阻害度の高い誘導体は得らなかった。(2) AKR1C3阻害剤:前年度に見出した高選択的阻害剤バッカリンの研究成果を論文として発表し、そのドッキングモデルに基づきさらに強い阻害を示す誘導体の合成に成功した。また、本酵素阻害剤のトルフェナム酸は、キノンで惹起されるヒトリンパ腫U937細胞の分化を抑制することが明らかになった。(3) AKR1B10阻害剤:生薬成分キサントンのうちγ-マンゴスチンが本酵素を強く阻害することを見出し、論文として発表した。 2.結晶化と高次構造解析。AKR1B10と新規阻害剤のジフェニル化合物2種との共結晶を得、解析した高次構造に基づきさらに強力な誘導体の合成を開始した。 3.培養細胞における各阻害剤の評価。前年度に確立した上記の酵素過剰発現細胞における阻害評価系を用いて、各阻害剤が細胞レベルでも強力に標的酵素を阻害することを明らかにした。 4.抗癌剤耐性:大腸癌細胞の抗癌剤シスプラチン耐性化にはAKR1C1とAKR1C3が関与し、両酵素の特異的阻害剤投与により、耐性が抑制されることを明らかにし、論文として発表した。 制癌剤開発の新たな標的である上記の酵素とその阻害剤に関する最近の国内外研究と本研究成果をまとめた総説を、抗癌剤耐性に関する単行本の1章として発表した。
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