研究概要 |
本研究では,新規制がん剤開発を目指し,内在性アポトーシス抑制因子XIAPを創薬ターゲットとした阻害剤の創製を目的としている.私共は,独自に開発したin silico分子設計手法(COSMOS法)を用いて,XIAP/Smac結合部位を創薬ターゲットドメイン(Hot Spot)として,XIAP阻害剤(アンタゴニスト)となる候補ペプチドを設計し,その実測結果から最適ペプチドとしてAVPFを同定した.AVPF/XIAP相互作用について結合エネルギーのDecomposition analysisを行い,この相互作用に重要なXIAP側のアミノ酸残基(Hot amino acids)を同定した.このHot amino acidsを支点として,XIAPアンタゴニスト低分子化合物設計のためのpharmacophoreを構築し,我々が開発した結合エネルギー分布度類似評価法(Mimetics Rate(MR)法)を用いて化合物ライブラリ(約300万化合物)からスクリーニングを行った.選出された化合物群について,蛍光偏光測定を用いてXIAP-BIR3への結合能の評価を行った結果,XIAP-BIR3結合能を有する化合物ITM-017を見出すことができた.平成23年度は,このITM-017の結合様式を基に,私共が開発したin silico自動化最適化法を用いてXIAPアンタゴニスト最適候補化合物の分子設計を実施し,さらにXIAP阻害能の高い最適リード化合物の分子設計を行った.それらの結合親和性について,MD Docking Studyを用いて詳細な検討を行った.設計した化合物TEST1-2,TEST1-6の結合様式をin silicoで解析したところ,いずれも良好な結合様式をとり,結合親和性もITM-O17に比べ2オーダー強いことが予測された.しかしながら,これら2つの化合物について,培養がん細胞株での効果を検証したところ,期待されるほど強いものではなかった(EC_<50>=20~40μM).おそらく,細胞膜透過性や細胞内での存在形態が悪いことによると推察される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
設計したXIAP阻害剤候補化合物は,in silico解析において良好な結合様式をとり,高い結合親和性をもつことが予測されている.しかし,それらの化合物は全般的に脂溶性が高く,in vitroレベルや細胞レベルでの評価系において,溶解度の悪さが問題となっているため,当初の計画よりも研究の進展がやや遅れている.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに設計したXIAP阻害剤候補化合物は,その脂溶性の高さに起因する溶解度の悪さ,細胞膜透過性や細胞内での存在形態の悪さが問題となっていた.これを改善するために,これまでの化合物とは異なる母核構造を設計し,SBDDを実施することによって,良好なXIAP結合様式及び細胞膜透過性が予測される新規リード化合物を設計する.さらに,培養がん細胞株でのアポトーシス誘導能,及び,担がん動物を用いた抗腫瘍効果の検証を行い,臨床応用への早期展開を目指す.
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