医薬品設計においてシード・リード化合物中にメチル基や塩素原子を一つ導入したり、複素環のヘテロ原子の配置を変えたりすることにより、活性が一度に10倍以上向上することがしばしば観察される。このような活性変化(結合エネルギー変化)を熱力学積分(TI)法を用いて、精度よく予測することを目標としている。 最終年度は、これまでの検討で実測値を精度よく再現できたCK2α複合体系において、1)計算時間の短縮化、2)再現性、3)計算ツールによる差、について検討した。その結果、1)においては、周期境界条件における系の大きさを変更し、計算系に含まれる溶媒(水)分子の数を減少させることにより、計算精度を落とすことなく計算時間を1.5~2倍向上させることができた。TI法による結合エネルギー計算は、一つの計算に要する時間が膨大(1~2週間)であるため、この時間短縮の効果は大きい。また、同じ計算を初速度をランダムに変えて3度実施したが、計算値の差は0.2 kcal/mol以内であり再現性には全く問題はなかった。一方、計算ツール間の比較では、分子力場ベースのAmberとCHARMm間では、計算誤差の顕著な差はなかった。現状では、計算系のモデリングの方法が異なるため、計算時間の比較はできないが、原理的にツール間での差は無いと考えられる。一方、分子力場法とフラグメント分子軌道法との比較においては、計算系によっては全く異なる値が得られ、この点に付き検証が必要である。 これらの結果を受けて、あるCK2阻害剤を題材に特定の部位への種々の置換基の導入、あるいは、塩素基の導入により活性が上がる部位がないかを本法により予測した。その結果、塩素基を導入することにより活性を大幅に向上させうる部位が存在することが判明した。また、そのような部位を簡便に推定する方法を考案した。
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