研究課題
線維芽細胞に結核菌を感染させ、その培養上清を各種カラムで精製した。複数の画分に細胞傷害活性をもつものが含まれていた。この活性分子は、結核菌感染ヒトマクロファージからも同様に産生されていた。興味深いことに、これらの因子は結核菌に対して抗菌的に働いていた。本因子は、インターロイキン1と相乗的に働いて結核菌の細胞傷害活性を引き起こすが示唆された。現在、同定作業を進めている。結核症のワクチンであるBCGの有効期間はおよそ15~20年とされているが、使用したBCG株の違いや接種方法、地域差、対象年齢の違いなど多くの問題があるとされている。実験的にマウスを用いて加齢に伴うBCGの有効期間の検証を行ったところ、ヒト年齢換算およそ20~30歳代になると免疫が落ちてくること、その現象が感染防御に関係しているサイトカインのシグナル伝達分子であるSTAT-3と関係していることを明らかとした(Vaccine, 2011)。pyrrolidine dithiocarbamate(PDTC)は抗原虫活性や抗真菌活性が持つことが知られているが、毒性も強いことも知られている。そこで、PDTCをGlucosamineのC1位に結合させた化合物を作製したところ毒性が軽減され、更に結核菌に特異的に効果を示した(Bioorg.Med.Chem.Lett., 2011)。本化合物は多剤耐性結核にも有効であり新規抗結核薬のリード化合物として有用なことが示された。また、dimethyldithiocarbamate(DDC)とその二量体であるdisulfram(DSF)も抗結核作用を示し、多剤耐性菌にも有効であることを見いだした。結核菌感染モデルマウスにおいて、DSF経口投与により抗菌活性が認められた。DSFは抗酒薬として利用されており、臨床への応用が期待される結果を得た(現在投稿中)。
2: おおむね順調に進展している
細胞傷害活性因子の同定の目安がついたこと、結核感染防御機構に関する本因子の役割に関係する現象を押さえることができたことは計画の進歩である。また、細胞傷害性因子が結核菌に抗菌作用を示すことが明となったのは予想外のプラスの結果である。一方、インターロイキン1との相乗効果について本因子がまだ同定されていないために、細胞内レベルの解析が進んでいない点が計画の進展としては遅れている。
本活性因子の同定後、本因子とインターロイキン1と細胞傷害活性との相乗効果について細胞レベルでの解析を速やかに行う。また、因子に対する抗体等の検出系を確立することにより、結核感染やBCGワクチン免疫、さらに結核菌治療時での結核菌の活動状況をモニター(バイオマーカーとしての応用を目指す)できるかを検討する。
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Bioorganic Medical Chemistry Letter
巻: 21(3) ページ: 899-903
Vaccine
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Biological and Pharmaceutical Bulletin
巻: 34(11) ページ: 1724-1730