ヒ素発がん機構を解明する上で、近年、無機ヒ素以外にも、無機ヒ素のメチル化代謝過程で生ずるジメチルアルシン酸(DMA)ならびに3価ジメチルヒ素の役割が注目されてきた。本研究では、これら代謝物の更なる代謝活性化機構を明らかにし、ヒ素発がん機序の解明を目指した。その結果、強毒性3価ジメチルヒ素は硫黄転移酵素によりジメチルチオアルシン酸(DMTA)へ変換されるが、生体微量元素との相互作用により容易にDMAや3価ジメチルヒ素に再変換されることから、この硫黄原子付加代謝反応は一時的防御機構と考えられた。一方で、ジメチルチオアルシン酸(DMTA)は細胞毒性が強いことが知られ、その毒性は低分子チオール化合物の存在下でジメチルアルシン酸(DMA)よりも強いことが確認された。以上のことから、ジメチルチオアルシン酸(DMTA)以降の代謝は毒性発現における新たな代謝活性化機構が存在することも推定した。
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