研究概要 |
水環境中の微量有害化合物の包括的な新規定量分析法の開発を目指し,定量NMR(qNMR)による絶対定量法と多変量解析を応用した方法を検討した.まず,qNMRの定量下限に関する情報が乏しいため,基礎的な実測データの収集して微量分析への適合性について議論する必要であった.そこで,認証標準物質(CRM)ジエチルフタレート(DEP)をモデル化合物試料とし,NMR(600MHz)で得られるNMRスペクトルの定量精度を検証した.その結果,標準プローブ付600MHzNMRで1.1~2.1mM,コールドプローブ付600MHzNMRで0.23~0.46mMの試料濃度があれば,誤差±1%以内で精度良く定量分析が可能であることを見出した.この濃度は,測定対象化合物の分子量を200と仮定したとき,それぞれ210~420ppm(μg/mL)および46-92ppm(μg/mL)に相当する.研究開始当初より,コールドプローブ付600MHzNMR自体の定量下限(誤差±10%)の理論値は10-40ppmになると試算していたが,実測よる検証作業により求められたこの結果はほぼ満足できる値であった.また,NMRスペクトル上に観察される不要な軽水等のプロトンシグナルをWater suppression Enhanced through T1 effect(WET)法で消去し,NMRスペクトルのダイナミックレンジを有効に活用することでさらに高感度・高精度化が可能であるか予備的な検討を行ったが,現状のパルス系列では高い定量精度が得ることができなかった.したがって,WET-qNMRによる高感度・高精度化については,パルス系列全体の見直しが必要であることがわかった.また,有害化合物(主に農薬類)についてqNMRスペクトルデータベースの作成を開始した.
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