研究概要 |
NMRによる環境試料等の混合物中の化合物の同定・定量については観察されるシグナルの重複の取扱に関して大きな課題がある.すなわち,質量分析計(MS)では,測定対象の分子イオンを指標にした同定・定量が可能であるのに対し,NMRでは,分子上の原子核の構造情報が複雑なスペクトルとして観察されるため,測定対象の化合物の化学シフトやスピン結合等の情報がない場合や数種の化合物が混合している場合には,NMR単独での同定・定量は非常に困難である点である.このことから,NMRによる汚染物質のモニタリング技術の構築には,化合物ライブラリーの拡充が必須であると考えた.qNMRスペクトルでは,測定対象の化合物の分子構造に関わらず,分子内の化学シフトの異なる各プロトンシグナルの高さおよび面積比はすべて定量的に観測される.そこで,各測定対象化合物のスペクトル情報のライブラリーを作成した.NMRスペクトル情報については,混合物中の化合物の同定だけでなく定量を視野に入れ,多くの既存NMRデータベースで採用されている化学シフトおよびスピン結合情報以外に,観察されたすべてのシグナルについての分子内強度比,濃度等を入力し,各化合物の化学シフト(ppm)と分子内シグナル強度比(signal top int.%)をXY座標に展開した2次元データとのフィッティングの度合いにより,混合物中の化合物の同定・定量を可能とする化合物ライブラリーとした.数種の化合物を混合した試料を検証用モデル実験に用い,実測スペクトル上の各シグナル頂点の化学シフト(ppm)とシグナル強度比(signal top int.%)を抽出し,化合物ライブラリーとのフィッティング条件として3点以上のシグナル頂点のXY座標がほぼ一致するものを候補化合物とした結果,複数成分を同定・同時定量することが可能であることが確認された.
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今後の研究の推進方策 |
検出感度を向上させるためのWET-qNMR条件についてさらに最適化を進め,高精度な定量分析法としての有効性を示す.また,これまでの検討結果を踏まえ,スペクトルライブラリーをqNMR多変量解析システムに統合し,実用化を図る.
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