前年度に引き続き,定量NMR (qNMR)による絶対定量法と多変量解析を応用した方法を検討した.qNMRの定量下限は,測定対象化合物の分子量を200と仮定したとき,標準プローブ付600MHz NMRで210~420 ppm (μg/mL),コールドプローブ付600MHz NMRで46~92 ppm (μg/mL)であることを見出しているが,本年度は,さらに高感度・高精度化を目指し,NMRスペクトルのダイナミックレンジを有効に活用する方法として,WETパルス系列の見直しを行った.しかしながら,WETパルス系列をqNMRに適用したとき,高感度化は達成できたものの,WETパルス照射によりNMRスペクトル全体にひずみが生じ,結果として定量精度の低下が観察され,この現象をパルス系列全体を見直したが解消することができなかった.次に,qNMR多変量解析法の実用化のために,NMRスペクトル解析には関する専門的な知識を要求するため汎用性に乏しいという問題について検討した.この問題を解決するために,qNMRスペクトルが化合物の構造情報と純度(絶対量)をデジタルデータとして正確に保存するという特長を生かし,qNMRスペクトル検索システムの構築を行った.qNMRスペクトル上に観察される各化合物の化学シフト(ppm)と分子内シグナル強度比(%)をXY座標化してライブラリーに保存した.現在までに,qNMRスペクトルライブラリーには農薬を中心としておよそ100種の有害化合物を登録した.また,分析対象のqNMRスペクトルとライブラリーに保存されたスペクトル情報とのシグナル頂点のXY座標の一致度より候補化合物を出力するためのプログラムを作成した.数種の化合物を用いて検索システムを評価した結果,ライブラリーに化合物が登録されていれば,混合物中から複数成分を推定・同定することが可能であることが示唆された.
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