研究概要 |
血管内皮機能障害は、全身の動脈硬化の指標となるだけでなく、心血管イベント発生の予測因子となる。生理活性脂質スフィンゴシン1-リン酸(sphingosine-1-phosphate : S1P)は、内皮細胞や平滑筋細胞のシグナル伝達物質として機能し、S1P受容体を介して血管構成細胞の成熟過程や血管のトーヌス、血栓形成を修飾する。また、S1PはHDLにより血中を輸送され、内皮障害時の修復過程においても重要な役割を果たすことが示唆されている。そこで、低リスク患者の血漿S1P濃度をHPLCにより測定し、同時にエコーを用いた血流依存性血管拡張反応(FMD)により内皮機能を測定してS1Pの臨床的意義を検討した。また血小板活性化の指標として血漿セロトニン濃度をHPLCで測定した。血漿セロトニンは血小板数で補正後に正規分布を示した(セロトニン/血小板:22.2±8.4x10^<-9>pmol/platelet)。セロトニン/血小板はFMD(3.9±1.7%)および血漿S1P(318±54nmol/L)と逆相関を示した(r=-0.391,p<0.05;r=-0.401,p<0.05)。スタチン治療は脂質異常を改善し、FMDを増加させた(5.7±2.0%,p<0.01)。スタチンによる血漿セロトニンの低下(6.1±43.6%)は、S1Pの増加(11.6±34.5%)とよく相関した(r=-0.552,p<0.05)。ヒト血管内皮細胞株EA.hy926ではS1P受容体(S1P1,2,3)が発現しておりS1P(100nmol/L)は内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)のmRNA発現を増加させた(quantitative real-time PCR)。血管内皮前駆細胞でもS1P受容体(S1P1,2,3)が発現しておりS1PはeNOS mRNA発現を増加させた。S1Pは脂質中でHDLと有意な正相関を示し、内皮機能とも相関を認め、S1PはHDLの血管保護的な役割の一つであると考えられた。本研究により新たなS1P供与体を開発することにより効率よくS1Pを初期動脈硬化病変部位に到達させることは、内皮に保護的な作用を有する内皮前駆細胞のS1Pに対する応答やS1P受容体発現などを制御することを含めて、動脈硬化症の先駆的治療法として用いられる可能性が示唆された。
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