研究概要 |
シトクロムP450(CYP)酵素を介した代謝によりアラキドン酸から生成される、エポキシエイコサトリエン酸類(EETs)およびジヒドロキシエイコサトリエン酸類(dHETEs)における、それぞれ5,6-、8,9-、11,12-、14,15-体のLC-MS-MSによる同時定量法を開発した。溶出時間は、dHETEsが約4~7分、EETsが約17~26分であった。定量限界値は、dHETEsが27pg、11,12-EETが64pg、その他のEETsが256pgであり、我々の実験系における定量感度として十分であった。 次いで、確立した同時測定法を用いて、単一のCYP酵素のみを発現させたリコンビナント酵素(rCYP)系におけるロサルタンのアラキドン酸代謝への影響について検討した。ロサルタン無添加時でのエイコサノイド類の生成量は、EETsにおいてrCYP2C9>rCYP2C8>rCYP2J2、dHETEsにおいて、rCYP2C8>rCYP2C9>rCYP2J2であった。エイコサノイド類全量では、14,15-体>11,12-体>8,9-体>5,6-体の順に生成量が多かった。ロサルタン添加により、濃度依存的にすべてのEETsの生成量が減少した。この結果は、ロサルタンによりCYP2C9、2C8及び2J2を介するアラキドン酸代謝が阻害され、EETsの生成量が減少する結果、心血管イベントが増加する可能性を示している。 さらに、ヒト肝ミクロソームの系ではあるが、ロサルタンの活性代謝物E-3174の添加により、濃度依存的にアラキドン酸の代謝が阻害されることを見出した。これは、ロサルタンによるCYP酵素阻害は、ロサルタンのみならずE-3174による影響も考慮しなくてはならないことを示唆している。 現在、これらの結果について論文投稿の準備中である。
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