本申請研究では、固形がんの治療において最も広範に用いられている5-フルオロウラシルに焦点を絞り、特に治療の用量規定因子や患者QOL維持において重要となる副作用である骨髄抑制の発症と酸化ストレスの因果関係を分子レベルで明らかにすることを目的とした。さらに、正常組織と腫瘍組織の5-FUに対する応答性の差異を生じさせる中心的分子を特定することにより、副作用発現に特異的に関わる機序の解明を目指した。本申請研究により副作用を克服するための分子基盤が構築されれば、新規支持療法等の開発などがん治療戦略に大きなインパクトをもたらすことが期待できる。 本研究では、はじめに5-FUのp53に対する作用をin vivoで解析し、5-FUは同一個体において移植がん組織ではp53をアップレギュレートするのに対し、骨髄p53を持続的にダウンレギュレートすることを明らかにした。また、5-FUは骨髄と移植癌組織のいずれにおいてもp53タンパクのリン酸化を誘導するが、その用量依存性は大きく異なり、腫瘍組織では線形的な応答を示すのに対し、骨髄では非線形の応答性が認められた。従って、p53応答性の相違が5-FU毒性の臓器選択性と関連する可能性が示唆された。一方、5-FUの骨髄毒性に酸化ストレスが関与する可能性に関して、抗酸化ストレスタンパクの転写を正に調節する転写因子Nrf2の阻害タンパクKeap1の遺伝子改変動物より得たMEF細胞を用いて、Nrf2高発現が5-FUの細胞毒性を保護するかについて検討を行った。5-FUはMEF細胞に対してcytostaticな増殖抑制作用を示したが、Keap1ノックアウト細胞においてもほぼ同様な抑制作用が認められた。従って、少なくとも繊維芽細胞においては5-FUの細胞増殖抑制作用にNrf2の関与は少ないことが明らかになった。
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