平成22年度においては、主に正常ラットを使用して、D-キヌレニンからNMDA受容体のアンタゴニストであるキヌレン酸の、血漿及び脳における生成について検討し、下記1~4の結果を得た。 1. ラット脳マイクロダイアリシス(MD)を用いた実験により、D-キヌレニンをラット脳(前頭葉皮質)に直接注入した結果、キヌレン酸の生成が、D-キヌレニン濃度依存的に認められた。 2. D-トリプトファン(Trp)投与後のラット血漿において、D-キヌレニンを経て、キヌレン酸の生成が認められた。 3. ラット脳MD実験により、D-Trp腹腔内投与後、脳内でキヌレン酸が生成することが分かった。この生成は、L-Trp投与時とほぼ同等であった。また、D-Trp投与時の方が、L-Trp投与時に比べて、キヌレン酸生成がより長時間持続する傾向が見られた。 4. ラット血漿及び脳において、D-キヌレニンからキヌレン酸への代謝生成に、統合失調症の疾患感受性遺伝子産物の一つであるD-アミノ酸酸化酵素(DAAO)の関与が示唆された。 上記の結果より、生体内でD-キヌレニンからキヌレン酸が生成することは明らかとなった。また、D-キヌレニンは、生体内でD-Trpから生成することが分かり、キヌレン酸の生成に関しては、L-Trp投与時よりも、D-Trp投与の方が、長時間持続する傾向が見られた。今後、生体内あるいは食品中D-キヌレニン及びD-Trpの存在を調べる必要がある。一方、この代謝反応の応用として、市販のDAAOを酵素として用い、D-キヌレニンを基質としたin vitro実験により、現在使用されている統合失調症治療薬のDAAO阻害活性の評価を行うことができた。
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