研究概要 |
本研究は,1)老化を基礎とする疾患の発症・進展の予防を目的にその候補物質の脳内移行性,2)老化を基礎とする疾患時における薬物の脳内移行の変化について,2つの側面からアプローチを行った. 1)クルクミンはアルツハイマー病マウスの脳におけるβアミロイドの蓄積を抑制し、アミロイド斑を減少させることが示されており,老化を基礎とする疾患の進展を遅延させる可能性を有する物質として注目されている.そこで,ウシ脳毛細血管内皮細胞を用いて,クルクミンの脳内移行性について検討した.常法に従って細胞を3日間培養後,クルクミン(50-250μM)を含有させた細胞外溶液ならびに培養液を使用して1分~24時間の取り込み実験を行い,細胞内クルクミン濃度をHPLCで定量した.その結果,いずれの濃度あるいはいずれの取り込み時間においても,細胞内に取り込まれたクルクミンは検出限界以下であった.したがって,血液中のクルクミンが脳内に移行する量は極めて微量である可能性が示唆された. 2)パーキンソン病(PD)は,脳の黒質線条体などの神経細胞が傷害され主に運動機能や知的機能などが損なわれ,高齢者に多い病気であるとともに,活性酸素が関与すると考えられている老化に関連する病態である.そこで、PD治療薬の1つであるレボドパ(L-DOPA)のL型中性アミノ酸トランスポーター(LATI)を介した脳内取り込み輸送に及ぼすPDの影響を明らかにすることを試みた.L-DOPAの血液脳関門透過固有クリアランスは,PD群で有意に低下した.L-DOPA脳内取り込みを速度論的に解析したところ,ミカエリス定数はコントロール群とPD群との間に変化が認められなかったものの,PD群における最大輸送速度は15%程度低下した.これらの結果より,PD発症時においてはLATIによるL-DOPAの輸送効率がわずかながら減少することが示唆された.
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