ラットにおける内因性亜鉛の分布を測定したところ、肝臓、腎臓などの血流量の多い臓器と精巣、膵臓に高濃度に分布していた。精巣、膵臓における亜鉛の高い分布は生殖機能への関与およびインスリンの合成や貯蔵との関係を裏付ける結果と考えられた。脳内各部位における分布も検討したところ、海馬で最も高い分布が観察され、記憶機能における亜鉛の重要な役割を示唆すると考えられる。亜鉛輸送担体ZIPの各臓器におけるmRNA発現量と内因性亜鉛の分布量との関係を検討したところ、両者の相関関係は有意ではなかった。そこで次に、細胞内亜鉛結合性タンパクであるmetallothionein(MT-1)のmRNA発現量を測定し、亜鉛の臓器分布量との関係を評価したところ、両者には有意な正の相関関係が認められた。したがって、亜鉛の分布を支配する因子としては、細胞内への輸送を担うZIPよりも、細胞内に移行した後、結合するMT-1が重要であること、さらに、亜鉛は臓器細胞内に移行した後、主としてMT-1と結合することが示唆された。次に、亜鉛安定同位体を用いて、静脈内投与後の亜鉛の体内動態を検討したところ、内因性亜鉛濃度が高い臓器に分布する傾向があり、特に膵臓への移行量が高かった。静脈内投与後、十二指腸内容液と尿を経時的に回収し、含まれる亜鉛量を測定したところ、十二指腸内の亜鉛量が高く、投与された亜鉛は膵液を介して消化管内へ排泄されることが明らかとなった。平衡透析法によりラット血漿あるいはウシ血清アルブミンとの結合性を測定したところ、結合率は98%以上と高く、低い尿中排泄を裏付ける結果であった。さらに、アルブミンとの結合をSctchard解析したところ、親和性が異なる2種類の結合部位が確認され、アルブミン1分子あたりの結合部位数は親和性が高い部位で1.36、親和性が低い部位で4.69であった。
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