我々はこれまでに、Aspp1-/-マウスとFlt1+/-マウスが胎生期に一過性の浮腫をきたしながら、成体まで正常に発育することを見出した。本研究では、これらの「予後の良い」胎生期浮腫を示す内皮細胞遺伝子変異マウスの病態と分子機構の解明を目的とする。 前年度までの解析で、Aspp1-/-マウスにおいてはリンパ管形成・機能異常が存在し、Flt1+/-マウスにおいてはFlk1リン酸化の上昇を伴って血管透過性が亢進していることが明らかになった。また、Aspp1-/-;Flt1+/-ダブル変異マウスでは両方の異常を伴って胎生致死となることが明らかになった。 Aspp1とVEGF-A/Flk1シグナルの相互作用を明らかにするために、野生型、Aspp1-/-、Flt1+/-、およびAspp1-/-;Flt1+/-ダブル変異マウスから胎仔組織を採取した後に、組織ライセートを調整しFlk1やSrc並びに内皮細胞間接着に影響するVE-カドヘリンのリン酸化状態を生化学的に解析した。Flt1遺伝子ヘテロ欠損に応じてFlk1リン酸化の上昇が認められたが、その他の分子のリン酸化には変化が認められなかった。Flt1+/-マウス胎仔でFlk1の下流シグナル分子で血管透過性亢進に関わるSrcやeNOSのリン酸化状態を解析したが、野生型との有意な差は認められなかった。また、eNOS阻害剤であるL-NAMEを妊娠マウスに投与しても、Flt1+/-マウス胎仔の浮腫は軽減されなかった。現在までの解析で、Flk1のいずれの下流シグナルがFlt1+/-マウス胎仔の原因となっているのかは明らかになっていない。一方で、Flt1+/-マウス胎仔の透過電子顕微鏡解析を行ったところ、野生型と比べて内皮細胞膜の嵌入が明らかとなり、内皮細胞内輸送経路が亢進していることが強く示唆された。
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