ニワトリ胚に対して、発生早期の眼球を穿刺し眼圧低下処置を施すと、その後の眼球の形態が劇的に変化することを、昨年度の研究で明らかにした。すなわち、1)眼球の拡張が有意に抑制されること、2)神経網膜が色素上皮層より剥離し硝子体腔内に突出し多数の「ひだ」を形成すること、3)色素上皮層と神経網膜の増殖性に違いがあることなどである。 今年度は穿刺処置した眼球(神経網膜、色素上皮層、強膜軟骨)の増殖と、神経網膜の分化について検討した。検索した穿刺処置後1-10日の全期間において、穿刺処置眼の硝子体腔内に突出したひだの長さは、対照眼と比較してやや短いながらも、増殖性が維持されていた。一方、強膜軟骨の面積は対照眼より有意に小さいものであった。神経網膜の分化マーカーであるVisininとPax6の網膜各層での分布パターンを免疫組織化学的に検索したところ、処置眼(穿刺処置したもの)と対照眼の間に違いはなかった。また、これら2因子のmRNA発現レベルも実験の全期間を通してほぼ同一であった。 以上の成績から、発生早期の眼圧低下は強膜軟骨の増殖性を低下させ、結果として眼球の拡張抑制を誘導したと考えられた。色素上皮層は実験の全期間を通して強膜軟骨に付着し、強膜軟骨と同調してその増殖も抑制されていたことは、色素上皮層に圧感受機構や増殖抑制機構が存在し増殖を調節している可能性が考えられる。一方、神経網膜の増殖や分化は眼圧が低下しても順調に進行していたことから、神経網膜には色素上皮とは異なる機構(増殖や分化の抑制を回避する機構)を備えている可能性がある。
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