研究概要 |
背景 頭蓋底~顔面正中部を構成する骨格は,頭部神経堤細胞群のうち最前端に生じ,眼胞の上方または下方を移動する二つの細胞群から形成される(眼上神経堤細胞と眼下神経堤細胞)。従来,二つの神経堤細胞は同じ性質を有するとされてきたが,本研究では,両者の細胞挙動の差異が骨格形態の多様性をもたらすと仮定し,その検証を目指している。 結果(1)頭蓋底骨格形成に関与する転写因子の解析:変異マウスの解析から,転写因子のFoxd3は顔面正中部形成に関与することが示唆される。頭蓋底骨格を形成する主体である頭部神経堤細胞での2つの遺伝子の発現時期やその部位の詳細について解析した。Foxd3は顔面の形態形成が顕著な発生段階で,従来報告されている神経細胞の発現だけでなく,顔面正中部となる内側鼻隆起内にある間葉細胞でも発現が認められた。背景に記したように頭蓋底骨格を形成する2群の神経堤細胞に注目し,培養系でのFoxd3の発現を比較したが,発現量に大きな差は認められなかった。そのため,Foxd3変異による正中部分の欠損・低形成は,神経堤細胞が目的とする部位に移動・定着し,骨格を作る過程までの段階に問題があると考えられた。 (2)頭蓋底や顔面正中部骨格で強く発現する糖蛋白質の解析:体幹部軟骨の分化初期の細胞では,ピーナツレクチンのPNAが結合する分子(PNA結合分子)が細胞膜上に発現する。このことに注目し,ニワトリ胚頭蓋底の形成過程でPNA結合分子の発現を調べた。その結果,頭蓋底正中部に位置する軟骨ではその形成初期からPNA結合分子の発現が観察されたが,この軟骨を挟むように形成される軟骨ではPNA結合分子の発現はごく弱かった。以上から頭蓋底~顔面正中部を作る骨格は,PNA結合分子を発現する正中部軟骨と,その両側に位置しPNA結合分子を発現しない軟骨に由来することが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究での到達目標は,顎顔面形成を担う頭部神経堤細胞が,その性質から大きく2群に区分され,それぞれが固有の形態形成を行うことを細胞あるいは分子レベルで示すことにある。主目的の一つに,Foxd3の細胞挙動制御における発現解析と機能解析があるが,現段階では発現解析にとどまっている。一方で,頭蓋底形成への関与が示唆されているSix2の発現解析や,部位特異的糖蛋白質の発見など,当初計画とは異なる視点から到達目標に近づいていると言え,全体としては順調と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は最終年度であるので,機能解析に重点をおくこととする。Foxd3とSix2については主に神経堤細胞の培養系を用い,それぞれの分子の発現亢進や機能阻害により,細胞の挙動変化や分化状態についての情報を得る予定である。培養系の確立が問題だったが,昨年度中に克服した。一方,昨年度の研究で見出した部位特異的糖蛋白質については,その発現部位の詳細についてと,分子実体を明らかにするための生化学的な解析を行う予定である
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