本研究は、Wntシグナルの調節因子をコードするSfrp遺伝子に着目し、遺伝子改変マウスを用いてSfrp5遺伝子を発現した細胞系譜を追跡し、左室側心筋に寄与する新たな細胞の起源を明らかにすると共に、Sfrp5の心筋分化における機能を同定することを目的としている。 各発生段階におけるSfrp5遺伝子の発現領域をin situ hybridization法を用いて解析したところ、原腸陥入によって形成され前方へと移動していく中胚葉の一部に発現が最初に認められ、心臓原基の背側からやがて心外皮・静脈洞の前駆領域へ、最終的に静脈洞へと推移していくが、心臓を形成する領域には認められなかった。既に心外皮・静脈洞の前駆領域は、心外皮や心外皮を経由して形成される繊維芽細胞や心筋細胞の一部、さらに冠動・静脈の内皮や平滑筋細胞の前駆細胞が存在すること明らかにされているため、マーカー遺伝子との二重染色を行ったところ、これらのマーカー遺伝子の発現とほとんど一致しないことが明らかになった。また、Sfrp5遺伝子座にGFPを挿入したマウスの発現解析を行ったところ、左心室から心房の心臓心筋にもGFPの発現が認められた。さらに、Sfrp1/2/5重複遺伝子欠損マウスでは、ルーピングの途中で心臓の発生が停止し、GFP発現細胞が心外皮・静脈洞の前駆領域にとどまることができなく心蔵領域にのみ観察された。これらの結果から、1)Sfrp5遺伝子が静脈洞へと分化する領域に継続的に発現する新奇の遺伝子である、2)Sfrp5遺伝子を発現した細胞が左心室から心房の心筋の起源となっている可能性がある、3)Sfrpが心筋前駆細胞の未分化性の維持に重要な役割を果たしていることが示唆された。今後さらに解析を進めていき、左室側心筋の発生様式の理解に結びつけたい。
|