本研究課題では、Wnt シグナルの調節因子をコードする遺伝子に着目し、その遺伝子改変マウスを用いた細胞の系譜を追跡し、左室側心筋に寄与する新たな細胞の起源を同定することを試みた。 今回、着目した遺伝子の発現領域が、心臓原基の背側、心筒の尾側末端、更に心外膜・静脈洞の前駆領域、最終的に静脈洞へと推移していくが、心臓を形成している領域には認められないことを見いだした。これまでに、心外膜の前駆細胞は、心外膜や心外膜を経由して形成される繊維芽細胞や心筋細胞の一部、さらに冠動・静脈の内皮や平滑筋細胞の前駆細胞へと分化していくことから、心外膜原基に発現するマーカー遺伝子と共発現するか調べたところ、ほとんど一致しないことが明らかとなった。従って、この遺伝子の発現細胞は、心外膜・静脈洞の前駆領域に存在するが、心外膜前駆細胞とは異なる細胞群であることが明らかとなった。 次に、この遺伝子座にGFPを挿入したマウスの発現解析を行った。心外膜・静脈洞の前駆領域の他に、左心室から心房の心臓心筋にもGFPの発現が認められたことから、この遺伝子を発現した細胞が左心室から心房の心筋の起源となっている可能性が示唆された。 そこで、この遺伝子を発現した細胞の運命を同定するために、CreもしくはErt2Creをこの遺伝子座に挿入したマウスを新たに作出し、系譜解析を行った。その結果、期待された心房から左心室までの領域に加えて、流出路領域にも寄与することが明らかとなった。このことから、左心室心筋に寄与する未分化な細胞群が存在することが明らかとなった。今回の解析から、”右心室以外に寄与する未分化細胞群と、左心室以外に寄与する未分化細胞群が、形成過程にある心筒内に流入することによって区画化された心臓が形成される”という新たな心臓形成モデルを提唱できるものと考えている。
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