細胞のエネルギー源としてのモノカルボン酸(短鎖脂肪酸、乳酸、ケトン体など)の重要性を明らかにするために、特異的な輸送体であるMCT(monocarboxylate transporter)の発現を免疫組織化学により腹腔内でひろく解析した。短鎖脂肪酸はおもに大腸において食物繊維が腸内細菌による発酵を受けて産生される。また、食品由来(発酵食材や乳製品)の乳酸は、摂取後小腸で吸収される。これらは腸粘膜で吸収されて、血流にのると考えられるが、リンパ管に入いる可能性や腹腔内にもれる可能性が考えられる。そこで、腸間膜リンパ節と腹腔上皮である中皮におけるMCTの発現を解析した。前者は、がん細胞の転移の点で注目した。 マウスの腹腔内には大きい腸間膜リンパ節が存在する。免疫組織化学により、このリンパ節のリンパ洞内の細網細胞がMCT1を強く発現していた。さらに、リンパ洞の壁をつくるリンパ洞内皮細胞も陽性を示した。このことは、腸で吸収されたモノカルボン酸がリンパの流れにのり、リンパ節において構成細胞にとりこまれることを意味する。がん細胞は好んで解糖系を使うことが知られ(Warburg効果)、乳酸アシドーシスになり、高乳酸血症になる。がん細胞のリンパ節転移の機序との関係でリンパ節のMCT1の特異な発現が注目される。 一方、腹膜上皮である中皮細胞がMCT1を細胞膜上に発現していた。従って、乳酸などのモノカルボン酸を積極的にとりこむ機構が存在することを示している。がん悪液質では腹水中に乳酸がたまるので、ここでも癌との関係が生じる。ただし、すべてではなく特定の中皮細胞がMCT1を発現すること、細胞とは異なる構造物がMCT1を発現しており、電顕レベルでの解析が必要である。
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