ゴルジ装置の構築は、他の細胞内膜系小器官との間の膜輸送機構により動的に維持されている。本研究では、平成23年度までに、下垂体前葉の性腺刺激ホルモン産生細胞のゴルジ装置が細胞極性の乏しさを反映して球状の構築を呈することを明らかにし、ゴルジ装置の構築維持機構を解析するうえで同細胞が優れた実験系となる可能性を示してきた。そこで、平成24年度には、膜輸送機構に深く関与する微小管の破壊が同細胞のゴルジ装置構築にどのような影響を与えるか、微小管破壊効果のあるコルヒチンをラット腹腔に投与し、下垂体前葉の同細胞の微細構造と分子局在を経時的に解析した。その結果、コルヒチン投与から1時間後までに、まずゴルジ装置cis側に局在するp23分子が細胞周辺部に散逸するのが観察された。一方、ゴルジ装置cis側とtrans側にそれぞれ局在するGM130分子とTGN38分子は、この時点では対照群と同様に環状に配列し局在していた。電顕観察では、内腔はやや虚脱しているものの対照群と同様に積層し環状に配列したゴルジ層板が観察されたが、p23はゴルジ装置を離れ新たに細胞周辺部に出現した多数の空胞に移行していた。さらに、コルヒチン投与8時間後には、GM130分子もTGN38分子も細胞内に散在し、ゴルジ装置は著明に断片化した。以上の所見から、微小管を破壊すると、ゴルジ装置に局在していたp23、GM130、TGN38分子のうち、まずp23分子だけが細胞周辺部に出現した多数の空胞様構造に移行し、その後、少し遅れてゴルジ装置の側方連続性が失われて断片化することが明らかになった。この二つの現象の時間差は、微小管および微小管依存性モーター蛋白が、少なくとも二つの異なる機構でゴルジ装置の大局的な構築の維持に関わっていることを示唆するものと思われた。以上の研究成果は、第58回日本解剖学会東北北海道連合支部学術集会で報告した。
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