脊椎動物の初期の発生を解析するための理想的なモデルである発育鶏胚において、発生の後期や孵化後についての種々の現象を解析するモデルとしての有用性を再検討するにあたり、Tol2トランスポゾンを用いた遺伝子導入系の検討に着手した。まず既に作成したGFAPプロモータで作動するTol2トランスポゾンGFP発現ベクターを初期胚の様々な神経形成領域に導入し、後期胚での発現様式を観察した。その結果、孵卵開始から10日過ぎ~孵化後のヒナにおいて脳や脊髄など様々な神経組織においてGFPを発現する細胞が認められ、これらの細胞で内在性のGEAPの発現が一致して認められ、アストログリアへの遺伝子導入を確認することに成功した。続いて脊髄運動ニューロン特異的に遺伝子導入するためにコリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)のプロモータを含むと想定される領域を同定し、ニワトリのBACライブラリーから同領域を回収した後、Tol2トランスポゾンGFP発現ベクターの作成を行った。孵卵開始3日の胚に遺伝子導入し、7日目に脊髄横断切片を観察したところ前角にGFP陽性細胞が認められた。しかしながら14日目~孵化後のヒナでは脊髄前角でGFPを発現する細胞が確認できなかった。この結果は、ニワトリBACライブラリーから単離したChATプロモータは7日目では前角の運動ニューロンで機能していることを意味する。一方、本来発生の後期ではChATプロモータはより活性を有することが期待されるが、T2トランスポゾン発現ベクターと組み合わせるとあまり有効に機能していないことを示唆する結果が得られた。
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