本年度はTol2トランスポゾンを用いた遺伝子導入系について、通常の発現プラスミドを用いた遺伝子導入系と対比した検討を重点的に進めた。 脊髄運動ニューロンに優位に発現するLimホメオ蛋白の一つであるislet-1遺伝子のエンハンサー領域を用いて作成したT2トランスポゾン発現ベクターと、同様のエンハンサー領域を用いたプラスミドベクターを発育鶏胚に導入し、レポーター遺伝子の発現パタンを追試、精査した。脊髄全体では前年度確認したようにTol2トランスポゾンを用いた系で前角の運動ニューロン以外でも広範に発現が認められる一方で、脊髄前角の運動ニューロンでの発現については、両者に共通して発生の進展とともに発現が減弱する傾向が認められた。Islet-1遺伝子のエンハンサーの活性をより正確に把握するため、半減期が短い変異型GFPをレポーターとして導入したところ、通常のGFPでは発現が減弱しつつも確認できるE8以降の脊髄ではGFP発現を確認することができなかった。この結果はislet-1遺伝子のエンハンサーが発育後期の鶏胚脊髄では活性が低く、通常のレポーター遺伝子の発現が確認できるのはエンハンサーの転写活性によるものではなく、既に発生初期で作られたタンパクの残存であることを示唆している。 この結果を受けて、T2トランスポゾンを用いた遺伝子導入系には、1)通常の発現プラスミドで機能する転写調節領域の選定、をまず行い、次に、2)T2トランスポゾンの系で機能する遺伝子領域の選定、を行う必要があることが明らかとなった。
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