本年度は、腎上皮系培養細胞NRK-52E株を用いて、アセチルコリン(ACh)のアナログであるカルバコール(CCh)の作用を詳細に検討した。NRK-52E細胞は恒常的にM1受容体およびM4受容体を発現している。CCh刺激により、これらの受容体に加え、M2受容体の発現が誘導された。M2受容体の発現は、アトロピンまたはtropicamideにより特異的に阻害されたことから、M2受容体の発現はM4受容体の活性化カスケード下流に存在していることが示唆された。また、CCh刺激により、ATP感受性カリウムチャンネルKir6.1の発現が誘導された。そして阻害実験によりKir6.1もまたM4受容体活性により制御されていることが明らかとなった。Kir6.1の発現は、M2受容体特異的阻害剤metoctramineには影響を受けなかったため、Kir6.1の発現はM2受容体とは異なるカスケードかもしくはKir6.1の活性化によりM2受容体が誘導されたと推測される。 一方で腎臓に投射する副交感神経の存在の可能性を検討するため、腎神経叢の直接標識を試みた。腎神経にマイクロカプセルを装着し、逆行性トレーサーであるFluorogoldを充填することで、腹膜や腎周辺組織からの非特異的取り込みを排除した。その結果、副交感神経の中枢である延髄迷走神経背側運動核や疑核および仙髄中間帯には陽性細胞は認められなかった。このことから、腎臓へ投射するこれらの中枢からの副交感神経線維はほとんど存在しないことが明らかとなった。
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