研究概要 |
[背景]我々はCD43などの細胞表面ムチン型糖蛋白質をヒト胎児腎臓由来細胞株HEK293Tに発現させると細胞表面に微絨毛(マイクロビライ)を形成すると共に細胞の球状化を引き起こし、また、細胞接着を抑制することを発見した。微絨毛は細胞膜とアクチン繊維束、ERM (Ezrin, Radixin, Moesin)蛋白質等を含む指状突起であるが、その形成機構についてはほとんどわかっていない。 [結果と考察]CD43発現が微絨毛形成や細胞球状化するメカニズムを特定する為に、本年度は(1)CD43による細胞内シグナルの変化を解析し、CD43発現によりERM蛋白質のC末Thrリン酸化が顕著に増加することが明らかになった。また、(2)CD43の欠失ミュータントをHEK293Tに発現させ、微絨毛形成、細胞脱接着・球状化、および細胞内シグナルの誘導を観察することで、CD43の細胞外ドメインおよび膜貫通ドメインがこれらの変化を惹起するのに必要かつ十分であるという結果を得た。CD43の細胞外ドメインは細胞接着を阻害する機能を有していることから、ERM蛋白質のリン酸化や微絨毛形成はCD43細胞外ドメインによる細胞接着阻害により誘導されることが示唆された。そこで(3)CD43発現以外の方法で細胞接着を阻害してもERM蛋白質のリン酸化が起こるかどうか検討したところ、トリプシン処理後再接着を阻害したHEK293T細胞でFRM蛋白質リン酸化が認められ、このリン酸化は細胞再接着により抑制された。これらの結果より、細胞接着が阻害されると何らかの機序でERM蛋白質リン酸等微絨毛形成や細胞球状化に必要なシグナルが惹起されることが明らかになった。また、CD43等の細胞表面ムチン型糖蛋白質は白血球の接着阻害のみならず、細胞形態形成に大きな役割を果たしている可能性が示唆された。
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