研究課題/領域番号 |
22590198
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
立花 宏一 独立行政法人産業技術総合研究所, 健康工学研究部門, 主任研究員 (80216986)
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キーワード | 細胞・組織 / 細胞接着 / 生物物理 / 微絨毛 / ムチン |
研究概要 |
本研究ではCD43等の細胞表面ムチン型糖蛋白質が細胞接着制御と細胞表面微絨毛形成において果たす役割とそのメカニズムの解明、および、微絨毛等の細胞表面構造と細胞接着制御の関係について解明することを目的にしている。本年度は細胞接着制御と微絨毛形成を起こすCD43以外のムチン型糖蛋白質を探求・解析し、ムチン型糖蛋白質であるCD34あるいはCD162をHEK293T細胞に発現させると細胞の脱接着・球状化、微絨毛形成を起こすことを発見した。CD43同様、CD34発現HEK293T細胞でもERM蛋白質のC末Thrリン酸化の増加が認められ、CD43同様CD34等も細胞接着の阻害によりERM蛋白質C末Thrリン酸化を促進することで微絨毛形成を促進する機能があると考えさらに解析を続けている。また、昨年度に発見・報告(Cell Adhesion & Migration,5:119-,2011)した細胞脱接着がERM蛋白質C末Thrリン酸化を促進する機構を明らかにする為にキナーゼ阻害剤等を用いた解析を行った。その結果、上記リン酸化に関わるのではないかと考えられる複数のキナーゼ候補を抽出しており、キナーゼ同定の為に、引き続きより詳細な解析を行っている。さらに、本研究中にインテグリンー細胞外マトリックス結合とは異なる全く新しい細胞-基質接着を発見している。ムチン型糖蛋白質や微絨毛はインテグリン等を介する細胞接着を阻害するが、新たに発見した細胞接着は阻害しないことを示唆する知見が得られており、ムチン型糖蛋白質や微絨毛による細胞接着の選択的制御の可能性について明らかにする為に、この新しい細胞接着の性質やメカニズム、微絨毛との関係などについて解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ムチン型糖蛋白質による微絨毛形成機序として、細胞接着阻害がERM蛋白質のC末Thrリン酸化を誘導することを本研究中で明らかにしている。一方、微絨毛はインテグリン-細胞外マトリックス結合による細胞接着を阻害することを示唆する結果も得られている。またCD43以外に、他のムチン型糖蛋白質であるCD34,CD162も細胞接着阻害能・微絨毛形成能を有することを明らかにし、引き続き解析中である。さらに、本研究を遂行する中で今まで知られていなかった細胞接着を発見しており、微絨毛による従来の細胞接着阻害とこの新規の細胞接着の関係についても興味深い知見が得られることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までの解析により脱接着がERM蛋白質のC末Thrリン酸化を引き起こし、これが微絨毛形成を起こしていることを示唆する結果を得ている。微絨毛形成メカニズムを解明するために、今後、阻害剤やsiRNAを用いた解析によりこの一連のシグナル伝達経路を解明したい。また、CD43に加え、他のムチン型糖鎖を有する膜糖蛋白質CD34,CD162もHEK293T細胞の微絨毛形成・細胞脱接着を起こすことを明らかにしており、これらの膜蛋白質の細胞接着・微絨毛形成における働きについても研究をまとめたい。これらに加え、本研究を遂行する中で発見した新規細胞接着について、その性質・メカニズムを細胞生物学的・生化学的解析により明らかにし、かつ、微絨毛との関係について明らかにしたい。
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