本研究では我々が発見した細胞表面ムチン型蛋白質による細胞形態制御(細胞球状化、微絨毛形成)および細胞接着制御のメカニズムを明らかにする事を目的としていた。昨年度までに、細胞形態変化はムチン型糖蛋白質による細胞接着阻害により誘導されたERM蛋白質のリン酸化を介していると考えられる事(Cell Adh Migr 2011; 5:119-)を報告しているが、細胞形態が細胞接着におよぼす影響については明らかに出来ていなかった。 本年度は細胞表面ムチン型蛋白質であるCD34を高発現している培養細胞株KG-1を用いて、細胞表面形態による細胞接着制御を観察した。KG-1細胞は球状の浮遊細胞で微絨毛に覆われており、細胞接着因子インテグリンは微絨毛上に点状に局在する。a4b1インテグリンのリガンドをコーティングした培養容器にKG-1細胞は結合しないが、CD34のムチン領域をO-sialoglycoprotein Endopeptidase (OSGEPase)で切断すると一部(3~4割)の細胞は結合する。この結果はCD34ムチン領域にインテグリンを介する細胞接着を直接阻害する機能がある事を示している。しかし、OSGEPase処理によりすべての細胞が接着するわけではなく、また、接着した細胞でも球状の細胞形態・微絨毛は保たれており、細胞はspreadingすることなく微絨毛で容器に接着している。これは分化誘導剤等によりspreadingして容器に接着する場合とは全く異なっている。細胞表面構造を保ったspreadingしない接着の場合には、接着部位の接触細胞膜面積は限定されており、細胞膜上の利用可能接着因子数も限定されていると考えられる。従ってこれらの結果より、本研究により球状の細胞形態・細胞表面微絨毛はそれ自体細胞接着を抑制する効果があることが示唆された。
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