研究概要 |
慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease, CKD)の原因は糖尿病、高血圧、慢性糸球体腎炎など多岐に渡るが、糸球体傷害に続発する蛋白尿の出現から尿細管間質傷害・腎間質線維症が惹起されるという、腎不全進行機序(common final pathway)が存在する。本研究課題では、糸球体傷害に伴って濾過された蛋白尿により傷害を受ける近位尿細管細胞の生理学的環境に着目した。近位尿細管細胞は、脂肪酸結合アルブミンを再吸収する際に酸化ストレスが蓄積するが、近位尿細管細胞が存在している酸性環境が、蛋白尿による酸化ストレス産生を相乗的に増強する可能性があると考えて、(1)アルブミン負荷ネフローゼモデルなど腎疾患モデルにおいて、腎内酸化ストレスがアルカリ負荷により改善するかどうかを検証する(in Vivo研究)、(2)尿細管培養細胞を用いて、酸性化がアルブミン負荷による尿細管酸化ストレスを亢進させる機序について解明する(in Vitro研究)、(3)慢性腎臓病患者において、アシドーシス補正薬が腎保護作用に有効で有るかどうかを検討する等の研究計画を立てた。 (1)(2)については、脂肪酸結合アルブミン(オレイン酸結合)負荷時の活性酸素産生は、pH低下依存性を示し、酸性下で著明に増加した。また重曹飲水によって尿をアルカリ化することでアルブミン負荷ネフローゼにしたマウスの尿細管で酸化ストレス蓄積とDNA酸化傷害や組織傷害が改善することが判明した。これらのことから、酸性環境の制御が蛋白尿による酸化ストレスに伴う尿細管間質傷害に重要な役割を果たしていることを英文論文に発表した[J Am Soc Nephrol. 22 : 635-648, 2011]。 現在、(3)の研究計画を推進中。具体的には、CKD stage 3~4の患者において、アシドーシスの補正薬(クエン酸カリウム、または重曹)が腎保護作用に有効で有るかどうかを、感度の高い尿中バイオマーカーを用いて検証する(本学の倫理委員会に申請中)。
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