これまでのラット大腸粘膜を用いた研究で、ワサビの辛味成分であるアリルイソチオシアネート(AITC)が誘導するPGE2依存性Cl分泌にAITC受容体であるTransient receptor potential ankyrin 1(TRPA1)が関与する可能性が示唆されたことから、ラットから単離した大腸腺において、AITCにより誘導される膜電流が観測できるかをホールセルパッチクランプ法により検討した。その結果、ラット単離大腸腺にAITCを暴露しても、TRPA1様のカチオンチャネル電流だけでなく、Cl電流も観測できなかったことから、AITCは大腸クリプト細胞に直接作用しないことが示唆された。またAITCがTRPA1チャネルを介してCl分泌を生じるのかを検証するため、TRPA1欠損マウスを用いた。まず野生型マウスから単離した大腸粘膜においても、AITCはラットと同様にPGE2依存性Cl分泌を引き起こすことを確認した。このAITC誘導性Cl分泌はTRPA1阻害剤であるHC-030031により抑制された。次にTRPA1欠損マウスを用いて検討したところ、予想外にも野生型マウスと同様にAITC誘導性Cl分泌が観測された。このCl分泌もTRPA1阻害剤により抑制された。これらの結果から、AITCはTRPA1以外の分子に作用して、Cl分泌を生じるものと考えられた。さらに大腸粘膜におけるPGE2産生細胞の局在を調べるため、PGE2合成酵素の局在を免疫蛍光染色法により検討した。その結果、mPGES1は粘膜筋板に、mPGES2はクリプト細胞に発現していることが明らかとなった。以上の結果から、AITCは大腸粘膜のPGE2産生細胞に作用し、産生されたPGE2がクリプト細胞のCl分泌を引き起こすことが示唆された。またこのAITCの作用にはTRPA1が関与していないことが明らかとなった。
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