研究概要 |
心筋虚血再灌流傷害の発生原因として再灌流時に産生される活性酸素種の関与が考えられている.本年度の研究では,まず,生体内で産生される代表的な活性酸素種である過酸化水素(H_2O_2)の心筋細胞内Ca^<2+>濃度や細胞生存に対する作用を,共焦点レーザ顕微鏡を用いた細胞内Ca^<2+>イメージング実験において検討した.その結果,過酸化水素(100μM)はマウス心室筋細胞の細胞内Ca^<2+>濃度の上昇を引き起こし,5分間,10分間,15分間の投与により,それぞれ,12%,19%,58%の細胞が過拘縮(hypercontracture)による細胞死を来すことを認めた.すなわち,過酸化水素による細胞傷害は細胞レベルにおける心筋虚血再灌流傷害の適切な実験モデルであると考えられた.パッチクランプ実験において過酸化水素(100μM)を投与すると,0mVを逆転電位とし直線状の電流-電圧関係を示す電流が活性化され,それはTRPCチャネルの阻害剤である2-aminoethoxydiphenyl borate(2-APB,20μM)によりブロックされた.すなわち,過酸化水素はマウス心室筋細胞においてTRPCチャネルを活性化することが明らかとなった.この実験結果により,心筋虚血再灌流時において活性酸素種によりTRPCチャネルが活性化され,それを介するCa^<2+>流入が,心筋虚血再灌流傷害に結びつく細胞内Ca^<2+>過負荷の発生に寄与していると考えられた.本研究成果は,今後の虚血再灌流傷害の予防・治療法を構築する上で,TRPCチャネル阻害の有効性を示唆するものであり,臨床的にも意義のあるものと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の計画においては,過酸化水素(100μM)投与による心筋細胞傷害(細胞過拘縮)が心筋虚血再灌流を検討する適切な実験モデルであることを確立し,さらに,過酸化水素がTRPCチャネルを活性化することを明らかにした.すなわち,心筋虚血再灌流傷害にTRPCチャネルの関わりを支持する実験データが得られたため,研究は概ね計画通りに順調に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
今後,種々のTRPCチャネル阻害剤(2-APB,La^<3+>,Gd^<3+>)が心筋細胞を虚血再灌流傷害から保護するか検討する予定である.さらに近年,過酸化水素によりカルシウム・カルモジュリン依存性タンパクキナーゼ(Calcium/calmodulin-dependent Kinase II, CaMKII)が活性化されることが明らかにされているため,過酸化水素によるTRPCチャネルの活性化機構にCaMKIIが関与しているかも重要な検討課題である。
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