Kir2サブファミリーに属する内向き整流性カリウムイオンチャネル(Kir2チャネル)の外向き電流は特に心筋細胞においては深い静止膜電位と速やかな再分極過程を決定づける重要な生理機能を担っているが、主に細胞内陽イオン(ポリアミンやマグネシウムイオン)による膜電位依存性ブロックによって制御されていると考えられているものの、その詳細な制御メカニズムにはなお不明な点が多い。われわれは特徴的な負のネガティブスロープを示す電流ー電圧特性の発現には細胞内陽イオンによるブロックを受けにくい特殊なチャネルコンポーネントが関与しているという仮説を提唱しており、本年度は我々が新たに見出したきわめて遅い時間依存性を示すチャネル開閉機構について特にセルフリーの状態でのpH依存性について詳細に解析を行ってその解明を目指した。その結果ポリアミンが結合する負の電荷をもつアミノ酸残基(D172、E224など)の電離度はpH6程度の酸性化によって影響を受けなかったこと等から、この開閉機構はpKaが比較的中性領域にある細胞内の陽イオン性分子による電位依存性ブロックがであるものと結論した。またこの分子はセルフリーの状態を長く保った膜にわずかに存在するのみであってもポリアミンと競合的にチャネルをブロックしたことから、生理的または病態生理的に重要な働きを担っている可能性があることが分かった。さらにポリアミンと同様に細胞質内領域のE224やE299よりも細胞膜内領域のD174に強い親和性があるものの、やはりD174がブロックを受けないチャネルコンポーネントが存在することが示唆された。その他本年度は新たに電位依存性Naチャネルを抑制することで知られるアミド型局所麻酔薬がKir2チャネルを抑制することを見出し、そのpH依存性などを詳細に解析してチャネルの細胞膜内領域に結合部位があると考えられることなどを結論した。
|