本課題では、「糖尿病患者における低血糖発作」のような血糖変動が心筋細胞における活性酸素種の発生を促進し心機能へ悪影響を与えるのではないかとの仮説を基に研究をすすめている。これまでに得られた結果として、糖尿病モデルラットにおいて低血糖発作を繰り返させることにより心筋虚血再灌流による心筋障害が一定の高血糖レベルを維持したラットに比べ有意に増大しておりミトコンドリアの機能障害も増悪していた。また細胞内抗酸化酵素であるカタラーゼとスーパーオキシドディスミューターゼの活性が血糖変動群で有意に低下していた。心筋培養細胞を用いた実験においても培養液を24時間毎に高濃度グルコース(4500mg/L)→低濃度グルコース(300mg/L)に交換したグルコース変動モデルを作製し心筋細胞を曝露したところ、高グルコース下で培養した細胞よりもグルコース濃度変動に曝露した細胞は活性酸素種が増加し、酸化ストレス(過酸化水素)に対してより脆弱となっていた。以上の現象の機序を解明するため、マイクロアレイを用いたmicroRNA発現の網羅的解析を行った結果、2種類のmicroRNA(miRNA141とmiRNA200c)の発現が血糖変動により増加することを発見した。さらにそれらのmicroRNAを心筋細胞に強発現させたところ活性酸素量の増加を認め、カタラーゼとスーパーオキシドディスミューターゼ活性の減弱がみられた。以上の結果よりmiRNA141とmiRNA200cの発現増加が細胞内抗酸化システムの減弱を介して活性酸素量を増加させ、虚血耐性の減弱につながるという結論に達した。
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