細胞内Caストアを形成する核膜の膜電位は、Ca放出とK流入の相互作用によりバースト状に変動する。本研究は、この膜電位変化の機能的役割を明らかにすることを目的とする。鶏胚網膜を実験対象とし、核膜をラベルする電位感受性蛍光色素[DiOC_5(3)]を用いて核膜の膜電位変化を記録すると同時に、Ca感受性蛍光色素(Fura-2とFura Red)を用いて細胞内Ca濃度変化を記録した。カルバミルコリンの投与によりCaストアからのCa放出を起こすと、細胞内Ca濃度の上昇に先行してDiOC_5(3)の蛍光強度が増大した。また、自発的に生じるDiOC_5(3)のバースト状変動の周波数特性を解析した結果、200-300Hzの成分が主であった。核膜と細胞膜が密着し細胞体どうしが隣接する場合、核膜の膜電位変動に伴う容量性電流が細胞膜を通過することにより細胞膜電位が変動し、細胞膜に存在する電位依存性Naチャネルが活性化され細胞間で同期した活動電位が発生すると予想される。そこで、DiOC_5(3)で染色した網膜から核膜の自発的な膜電位変化を記録すると同時に、網膜の表面から金属電極にて活動電位を記録した。その結果、DiOC_5(3)の蛍光強度の増大開始時点に一致してバーストスパイク発射が網膜神経節細胞間で同期して生じることが明らかになった。核膜の自発的な膜電位変化は、テトロドトキシンでスパイク発射を停止させ、さらに、興奮性神経伝達物質受容体の阻害剤を添加しても起こったことから、細胞間で同期したバーストスパイク発射は核膜の膜電位変動により誘起されると考えられる。本研究の成果は、Biochemical and Biophysical Research Communications 406:107-111(2011)として発表した。
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