神経上皮細胞は胚発生過程において神経幹細胞として機能し、これらの細胞では細胞内CaストアからのCa放出が顕著に生じる。細胞内Caストアは小胞体と核膜から構成され、Caストアの膜電位はCa放出とK流入の相互作用によりバースト状に変動する。平成22-23年度では、Ca放出による細胞内Ca濃度の上昇に先行して核膜の膜電位が変化すること、及び、核膜と細胞膜が密着し細胞体どうしが隣接する場合、核膜の膜電位変動に伴う容量性電流が細胞膜を通過することにより細胞膜電位が変動し、細胞膜に存在する電位依存性Naチャネルが活性化され、細胞間で同期した活動電位が生じることを報告した。平成24年度では、神経上皮組織に存在する細胞外直流電位について解析した。鶏胚から眼杯を摘出し、ガラス管微小電極を用いて網膜神経上皮の内境界膜の内側(上皮組織の基底側)において細胞外電位を記録した。その結果、正の直流電位が存在することを発見し、この直流電位の大きさは網膜の領域によって異なり、眼杯腹側部へ向かう細胞外電位勾配が形成されることを明らかにした。この電位勾配の方向は網膜神経節細胞の軸索走行の方向と一致することから電気的な軸索誘導の可能性が考えられ、以下にこの可能性を検討した。細胞外直流電位は上皮型Naチャネルの阻害剤であるアミロライドにより抑制された。そこで、鶏胚眼胞と網膜器官培養系にアミロライドを添加すると、網膜神経節細胞の軸索走行が擾乱を受けた。これらの結果から、神経上皮組織の基底側に存在する細胞外電位勾配は、軸索伸長開始時点における伸長方向のガイダンスキューであることが示唆された。以上の研究成果は、BBRC 431: 280-283 (2013) Electric axon guidance in embryonic retina: Galvanotropism revisited として発表した。
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