研究課題/領域番号 |
22590212
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
相馬 義郎 慶應義塾大学, 医学部, 准教授 (60268183)
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研究分担者 |
林 真理子 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (30525811)
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キーワード | ABCトランスポータ / ATP加水分解 / Nucleotide Binding Domain / CFTR / チャネル / 結合エネルギー / ゲーティング / 水和 |
研究概要 |
本年度は、CFTRチャネルが、開口状態からATPの加水分解をきっかけとして閉口状態へと移行する過程において、ATP加水分解からNBD部分が解離した閉口状態になるまでの間に、PPiによって極めて速いレートで開口状態に移行が起こる新規の中間状態Xiが存在することを明らかにした。今回、この新規の中間状態Xiにおいてポアが開状態・閉状態のいずれにあるかについては最終的な断定できなかった。しかしながら、もし新規中間状態Xiにおいてポアが開口状態にある可能性は非常に高く、それが真実とすれば、今回の発見は、CFTRチャネルの1回の開状態中に複数回のATP加水分解サイクルが回ることを意味している。 このCFTRチャネルにおけるATP加水分解サイクルとゲーティングサイクルとのルーズカップリングの可能性についての発見は、CFTRがメンバーであるABCトランスポータ・スーパーファミリーのP-glycoproteinなどの他の輸送ポンプ分子の場合に当てはめて考えると、基質1分子を上り坂輸送するのに消費されるATPの数が確率的に変化している可能性があることを意味している。1分子の基質を一定の電気化学ポテンシャル差に逆らって行う仕事(外部仕事)は常に一定であるので、もしATPが従来から考えられてるように生体のエネルギー通貨として自由エネルギーを供給しているとすれば、余剰のエネルギーは熱として確率論的に放散されている可能性が考えられた。 その一方で、ATP加水分解が単にATP結合エネルギーからADP-Pi間静電反発エネルギーへのスイッチ機能を果たしていると仮定した場合には、熱エントロピーの確率論的生成は起こらないはずである。したがって、作動中のCFTR分子からの熱エントロピーの測定が、本研究課題の中心命題であるATP加水分解スイッチ仮説の検証の鍵になると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の初年度(平成22年度)において、3篇の論文発表を行なった。そして、その研究成果に基づいて新学術領域「水和とATP」公募研究への応募を行なって採択され、さらに本研究課題の進展速度を速めることができた。本年度は、CFTRのATP加水分解サイクルとゲーティングサイクルとのカップリングについて、従来の1;1固定ではなく確率的に変化するという、ATP駆動蛋白のメカニズムを理解する上で極めて重要な発見を行なった。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は本研究課題の最終年度であるので、今までの実験結果に基づいたゲーティングモデルによるモンテカルロ・シミュレーションを行なって、本研究のまとめとなる理論的な論文の執筆を計画している。 また、本年度から導入予定の高速AFMによるゲーティング中のCFTR分子のコンフォメーション変化の測定に挑戦する。成功すればCFTRチャネルにおけるATP加水分解サイクル、ゲーティングサイクルおよび分子コンフォメーション変化サイクル間の関係を明確にすることができる。これは本課題に中心命題であるABCトランスポータの機能発現におけるATP加水分解の役割が、エネルギー供給なのか、それともATP結合エネルギーからADP-Pi間静電反発エネルギーへのスイッチ機能なのかを明らかにするためにも非常に重要な情報である。
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