受精は生殖の基本的事象であり、その分子メカニズムの解明は生殖科学のみならず社会的な貢献も大きい。最近我々は、アフリカツメガエル卵保護膜に受精調節因子として新規タンパク質dicalcin(ダイカルシン)を見出した。本研究ではツメガエルおよびマウスにおいてダイカルシンの受精阻害作用の分子機構を解析し広く脊椎動物の受精の分子メカニズムを解明することを目的とする。平成22年度は以下の項目について解析した。 1) ダイカルシンによる卵保護膜内糖鎖分布の変化 まずダイカルシンによる卵保護膜糖鎖分布に及ぼす影響について糖鎖結合タンパク質であるレクチンを用いて解析した。その結果、未受精卵にあらかじめ過剰量のダイカルシンを反応させると、卵保護膜のRCAIレクチン染色性が増加することを見出した。そこで、この染色性増加反応のメカニズムをgp41とレクチンの相互作用および保護膜フィラメントの構造の側面から解析した。まず、卵保護膜からgp41を単離した後蛍光標識し、RCAIレクチンとの相互作用を蛍光相関分光解析したところ、ダイカルシン存在下でgp41とRCAIの親和性が増加することが分かった。また、あらかじめ未受精卵保護膜とダイカルシンを反応させると、保護膜糖タンパク質の蛍光標識効率が増加することが明らかとなり、ダイカルシンがgp41に結合すると保護膜フィラメントの三次元構造が変化することが示唆された。 2) マウスダイカルシン相同タンパク質の検索 分子系統解析により、ツメガエルダイカルシンは、マウスS100A11というタンパク質に分子進化上最も近縁であることが分かった。一方、マウスS100A11遺伝子とツメガエル遺伝子群の比較解析において、マウスS100A11は、ツメガエルダイカルシンに最も相同性が高いことが分かった。つぎに、S100A11の受精効率への影響をin vitro受精実験により解析した。あらかじめ過剰量のS100A11を卵・卵丘細胞複合体と反応させた後媒精したところ、受精率は用量依存的に減少した。以上より、マウスS100A11はマウスダイカルシンであり、受精調節因子として働く可能性が示唆された。
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