研究課題/領域番号 |
22590213
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
三輪 尚史 東邦大学, 医学部, 講師 (40255427)
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キーワード | 生理学 / 発生・分化 / 糖類 / 受精 / 糖蛋白質 |
研究概要 |
受精は生殖の基本的事象であり、その分子メカニズムの解明は生殖科学のみならず社会的な貢献も大きい。最近我々は、アフリカツメガエル卵保護膜に受精調節因子として新規タンパク質dicalcin(ダイカルシン)を見出した。本研究ではツメガエルおよびマウスにおいてダイカルシンの受精阻害作用の分子機構を解析し広く脊椎動物の受精の分子メカニズムを解明することを目的とする。平成23年度において、以下の項目について解析した。 (1)ダイカルシンと卵保護膜糖タンパク質間の相互作用の解析 前年度までに、ツメガエルダイカルシンが保護膜糖タンパク質gp41に結合し保護膜糖鎖分布を調節することを明らかにした。そこで、ダイカルシンとgp41の相互作用機構を解析するために、gp41およびgp41内のZP領域をクローニングし、発現用ベクターを作製した。 (2)マウスダイカルシンの生殖器における局在 前年度までに、分子系統解析およびin vitro受精実験により、マウスダイカルシンを同定し受精阻害因子として働く可能性を示唆する結果を得ている。そこで、マウスダイカルシンの生殖器における局在を解析したところ、卵巣黄体細胞、卵管上皮細胞に存在することが分かった。さらに、卵管内の卵・卵丘細胞複合体において、卵丘細胞の細胞膜上に存在していた。 (3)マウスダイカルシンの卵丘細胞への結合解析 上記(2)の実験において、マウスダイカルシンが卵管上皮細胞および卵・卵丘細胞複合体の卵丘細胞膜上に局在することより、マウスダイカルシンが卵管上皮細胞から卵管腔へ分泌され、卵丘細胞膜に結合することが想定された。そこで、組換えマウスダイカルシンを蛍光標識し、卵・卵丘細胞複合体と反応させたところ、Ca濃度依存的に卵丘細胞膜に結合することが分かった。以上より、マウスダイカルシンの受精阻害作用は、卵・卵丘細胞複合体の卵丘細胞を介する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
受精成立を調節する新規タンパク質ダイカルシンの受精阻害作用について、ツメガエルおよびマウスを用いて解析している。ツメガエルダイカルシンが卵保護膜糖タンパク質gp41に結合し卵保護膜内糖鎖分布を制御することを見出す等、ツメガエルダイカルシンの作用の分子機構の一端を明らかにしてきた。また、マウスダイカルシン相同タンパク質の同定および生殖器における局在等を解析し、ダイカルシンの種を越えた受精調節作用を明らかにしてきた。それらの結果の一部は、すでに国際的に定評のある雑誌に複数の論文として掲載され、また国内外の学会においても発表されている。以上より、受精成立の分子メカニズムの解明に向けて、着実な進捗が認められると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ツメガエルダイカルシンの作用メカニズムについては、当初の研究計画に基づき研究を実施すべきと考えている。また、マウスダイカルシンの作用メカニズムについては、マウスダイカルシンが当初予想されたように卵巣卵胞の透明帯に存在するのではなく、卵・卵丘細胞複合体の卵丘細胞に存在することから、マウスダイカルシンの受精阻害作用はツメガエルダイカルシンとは多少異なることが予想される。したがって、マウスダイカルシンの作用メカニズムを解明するために、卵・卵丘細胞複合体の糖鎖分布の詳細な解析を実施予定である。また、ダイカルシンノックアウトマウスはすでに利用できる状態であることから、ノックアウトマウスからの卵・卵丘細胞複合体を用いる等の方策を推進したいと考えている。
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