本研究の目的は、哺乳類における性染色体による性の決定だけではない、性ホルモンによって制御される脳の形態的雌雄分化について、出生臨界期の性ホルモン(エストロゲン)によって制御をうけるラットの脳を対象に、エストロゲンの有無によって発現応答する遺伝子のプロファイリングをもとに、形態的雌雄差形成の分子機構を解明すること、である。本研究課題を達成するために、平成22年度から平成25年度の4年間で、明らかにしたい目標として5点[I]-[V]を提示した。 初期段階では、形態的雌雄差がみられる代表的領域、内側視索前野の性的二型核と前腹側脳室周囲核を対象に実施していたが、real-time RT-PCR法によるエストロゲンへの応答性結果をみて、性的二型核に焦点をあてた。本領域でのタンパク質発現をWestern Blotting(WB)法にて調べた。出生直後に投与されたエストロゲン作用がタンパク質発現に顕著に現れるのは、予想していた24時間後ではなく96時間後であり、この採取試料に対し、一つのタンパク質について少なくとも5回はWBを実施してタンパク質の定量を行った。さらに、Immunohistochemistryにて局在の同定も行った。その結果、形態的雌雄差形成に関与するエストロゲン・シグナル伝達カスケードを確立することができた。シグナル伝達カスケードの最終タンパク質は、細胞運動に関わるcofilinタンパク質であり、本タンパク質はエストロゲンによって、リン酸化が抑制され(活性化)アクチンタンパク質のモノマー化を促進し、細胞が動的状態になっていることが示唆された。エストロゲンによる形態的雌雄差の原因は細胞運動に起因するものと考えている。
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