研究課題/領域番号 |
22590225
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
片渕 俊彦 九州大学, 大学院・医学研究院, 准教授 (80177401)
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キーワード | 感染ストレス / グリア細胞 / 学習記憶 / IL-6 / 海馬 / ミノサイクリン / poly I:C / 長期増強 |
研究概要 |
本研究の目的は、感染ストレスによって惹起された情動や、学習行動への影響のメカニズムを、脳内におけるサイトカインの主たる産生源であるグリア細胞に焦点を当て、グリア細胞と情動や学習行動との関連を行動学的および形態学的に解析することである。 【方法】合成二重鎖RNAのpoly I:C(3mg/kg)をWistar系雄性ラット(250~300g)に腹腔内投与し、24、48時間後に回避試験、恐怖消去試験、およびモリスの水迷路学習行動実験を行った。また、poly I:C投与24、48時間後にラットを灌流固定し、海馬のCA1や歯状回(DG)領域のミクログリアおよびアストロサイトの形態学的変化、細胞数を観察した。ミクログリア、アストロサイトの標識抗体としてはIba1、およびGFAP抗体をそれぞれ用いた。さらに、poly I:C投与24時間後に脳を取り出し海馬領域のmRNAを抽出し、リアルタイムRT-PCRによってIL-1β、IL-6、IFN-γ、TNF-α、c-fosmRNAの発現を定量した。また、polyI:C処置3日前からミノサイクリン(MC)(40mg/kg)を3日間連続で腹腔内投与し、その効果を検討した。 【結果】poly I:C投与によって海馬のCA1、DG領域のグリア細胞の活性化とともに学習記憶障害が誘発された。これらはミクログリアの活性化阻害剤であるミノサイクリンによって有意に抑制された。この時、海馬のIL-6mRNAが有意に増加し、ミノサイクリン前処置によってその増加は有意に抑制された。しかし、IL-1βおよびTNF-α、IFN-γ、c-fosの発現増加は観察されなかった。 【考察】poly I:Cによる学習記憶障害、グリア細胞の活性化、およびIL-6mRNAの増加が観察され、これらはミノサイクリン前投与によって完全に抑制された。従ってpoly I:Cによる学習記憶障害は、海馬で産生されるIL-6が重要であると考えられた。このことはIL-6が海馬スライス標本における長期増強現象を抑制するという以前の報告と一致している。。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は感染ストレスによるグリア細胞の活性化と、セロトニントランスボーターの発現機序について明らかにし、さらに今年度は学習行動への影響と海馬における変化を見ることで、学習記憶障害の機序解明を順調に進めている。
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今後の研究の推進方策 |
特に変更する点や問題点はなく、今後さらに計画に沿って研究を進め、最終年度である来年度に成果がまとまるよう、研究を継続する。
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