研究概要 |
本研究の目的は、感染ストレスによって惹起された情動や、学習行動への影響のメカニズムを、脳内におけるサイトカインの主たる産生源であるグリア細胞に焦点を当て、グリア細胞と情動や学習行動との関連を行動学的および形態学的に解析することである。 平成24年度においては、環境ストレスモデルとして①ウイルス感染モデルである合成二重鎖RNAのpoly I:C (3 mg/kg)、および②細菌感染モデルであるリポポリサッカライド (LPS, 250 μg/kg)の末梢投与による学習障害について検討した。その結果①前年度ラットへのpoly I:C投与が水迷路学習行動および受動回避学習行動を障害すること、その時海馬においてミクログリアが活性化し、IL-6 mRNAの発現が増強していることを示した。今年度は、poly I:Cによる学習障害へのIL-6の関与を明らかにするため、IL-6の中和抗体を脳室内に前投与すると、poly I:Cによる学習障害が抑制されることを示した。本研究によってpoly I:Cによる学習記憶障害そのメカニズムとして、グリア細胞の活性化によるIL-6の発現増加が明らかになった。②マウスにLPSを7日間連続腹腔内投与すると、海馬でβアミロイド蛋白(Aβ)の沈着、IL-1βとTNF-αのmRNAの発現増強、およびミクログリアの活性化が惹起されることを明らかにした。さらにこれらの反応が、膜脂質の一つであるプラズマローゲン (Pls)末梢投与で完全に抑制されることを明らかにした。Plsはアルツハイマー病患者の脳内で減少していることが知られているが、本研究のLPSモデルにおいても脳内Plsが減少し、Pls投与によってそれが抑制されることを明らかにした。今後Plsのアルツハイマー病予防および治療薬としての可能性を探究する予定である。
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