研究概要 |
哺乳動物には白色と褐色、2種類の脂肪組織がある。白色脂肪がエネルギー貯蔵部位であるのに対して、褐色脂肪は代謝的熱産生の特異的部位であり、体温やエネルギー消費の調節に寄与している。褐色脂肪についての従来の知見の大部分は、マウスなどの実験動物から得られたものであったが、申請者らは核医学的手法(FDG-PET/CT)を利用して健常成人にも多くの褐色脂肪が存在することを世界に先駆けて明らかにしてきた(Saito M et al. Diabetes 2009,58:1526-1531)。 本研究では、ヒト褐色脂肪が全身のエネルギー消費や体温調節、体脂肪の増減にどの程度寄与しているのかを明らかにするために、以下の実験を行った。 1、健常被験者20名を対象にして、急性寒冷刺激(薄着で室温19度、2時間)を行い、エネルギー消費(呼気中の酸素・二酸化炭素濃度をメタボリックアナライザーを用いて測定)や体温(体表及び脳温を体温ロガーで測定)の変化を追跡し、褐色脂肪の活性(FDG-PET/CTで評価)との関係を調べた。その結果、寒冷刺激に対する応答と褐色脂肪活性との間に有意な相関がみられ、ヒトでの寒冷誘導熱産生に褐色脂肪が寄与していること、及びそれが体温調節に一定の役割を果たしていることが証明された。 2、162名の健常被験者について褐色脂肪活性と肥満指標(BMI,内臓脂肪量、皮下脂肪量など)との関係を解析したところ、褐色脂肪活性が高いと肥満度が低い、加齢に伴い褐色脂肪活性が低下し肥満度が上昇することなどが明らかになった。これらの結果から、褐色脂肪によるエネルギー消費が体脂肪蓄積、特に加齢にともなう内臓脂肪蓄積を抑制すると結論した。
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