研究課題
オレキシン産生細胞は視床下部外側野に限局し、脳全体に広範な投射を持つ神経性ペプチドであり、食欲や睡眠の制御をしていることが分かってきた。しかし、オレキシンと性行動の関係は、その関与を示唆する研究がいくつか存在するものの、いまだ決定的なことは分かっていない。そこで我々は、オレキシンによる性行動神経調節について調べるため、雄ラットの視床下部分界条床核(BnST)および内側視索前野(mPOA)にsaporin毒素を結合させたオレキシンを局所投与し、これら領域のオレキシン受容体を持つ神経細胞の選択的破壊の効果を検討した。手術後、1週間の回復期間をおき、性行動および嗅覚選好性(発情雌と性的に活発な雄の臭いを同時に提示し、どちらの臭いに対して長くアクセスするかを比較)のテストを行った。BnSTの破壊は、性行動の諸反応の中でも射精の潜時のみを有意に長くし、マウントやイントロミッションといったその他の行動や嗅覚選好性にはまったく影響を及ぼさなかった。一方、POAにおけるorexin-saporin注入は、性行動を完全に抑制した一方で、発情雌臭に対する嗅覚選好性にはまったく影響しなかった。最近の我々の研究でPOAの神経細胞破壊は嗅覚選好性を完全に抑制することが分かっているが、orexin-saporinによるオレキシン受容体陽性細胞の選択的破壊はそれとは効果を異にする。視床下部外側核のオレキシン産生ニューロンは、POAに対して性行動を全般的に、BnSTに対しては射精を促進していること、そして嗅覚選好性を制御する神経系には作用していないことが分かった。
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Hormones and Behavior
巻: 59 ページ: 193-199
Neuroscience Research, 2010.
巻: 68 ページ: 9-14