研究課題
近年、視床下部室傍核におけるオキシトシン神経細胞が、つがい形成や母性行動、社会的認知などのさまざまな社会行動を調節していることが知られるようになってきた。我々も昨年まで、母ラットが仔ラットの匂いに対して示す選好性(匂いに惹きつけられる行動傾向)は出産・仔育て行動によって形成されるが、これは仔の匂いに対するオキシトシンニューロンの反応性が深くかかわっていること、また、マウスが示す異性の匂いに対する選好性がオキシトシン遺伝子を欠損した(OTKO)マウスで失われていることを示した。さらに性的未経験な雌マウスは、雄との社会的相互作用の中で次第に雄を受け入れるようになるが、OTKOマウスでは雄を受け入れるようになるまでに非常に時間を要することもわかった。一方で、視床下部オキシトシンの影響は社会行動に限らず、自律神経系を介した痛覚感受性にもかかわっているようである。まず、雄ラットの性行動が痛覚閾値にどのような影響を持つかを、尾部に電極を装着して痛覚閾値の測定を行った。刺激は弱い電流から次第に強くしていき、ラットが体動もしくは発声によって反応した電流量を痛覚閾値と定義した。実験群は、性行動を行わせずに測定した群、性行動を行わせたが射精前に中断した群、性行動を射精まで行わせた群の3群で、痛覚閾値は射精の有無にかかわらず性行動を行わせることによって高くなることが分かった。そこで性行動直前にあらかじめオキシトシン拮抗剤を脳室内投与しておくと、性行動の遂行自体には影響しないがその後の痛覚閾値の上昇を抑制することが分かった。これらのことから、性行動によって視床下部オキシトシンニューロンが活性化され、それによって痛覚閾値の上昇、すなわち痛覚鈍化が生じていることが分かった。
2: おおむね順調に進展している
昨年までにオキシトシンの性行動と母性行動の実験を一区切り完了し、現在、論文準備中である。さらにそれに続く研究として、性行動時のオキシトシンニューロンの活性化とその痛覚閾値への影響に対する研究を行った。
今年度は、さらに性行動場面とは離れて末梢の生殖器刺激が自律神経の活動と痛覚閾値にどのような影響を及ぼすかを検討する。また、FGF5(Fibroblast growth factor 5)が嗅覚系に発現していることから、このペプチドが性行動や嗅覚選好性の調節にかかわっているかをFGF5 nullマウスを用いて検討する予定である。
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