研究概要 |
(研究目的)オキサリプラチンなどの抗がん剤は、副作用として末梢神経障害を必発し、臨床上大きな問題となっているが、その発現機序は不明であり対策法も確立していない。一方、がん患者は不安やストレス、うつ症状等精神的な痛みを伴うことも多くあるが、身体的苦痛と精神的な痛みとの関わりについては明らかにされていない。本研究は、がん治療におけるがん患者の痛みと情動、ストレスとの関係を解明し、それらの機序に基づいた対策法を確立することを目的とした。 (研究方法)体重250gのSD系雄性ラットを使用し、ストレス負荷にはアイソレーションケージを用いた個別飼育を用いた。末梢神経障害は、von Frey試験を用いた機械的アロディニアの評価と、アセトン試験による低温知覚異常の評価にて行った。オキサリプラチン(OXP, 2 mg/kg, i.p.)の投与は週2回、4週間行い、トリフロペラジンは単回投与を行った。また、鼻先に差し出した棒に対する反応(attack response)をストレススコアとして評価した。 (研究成果)個別飼育ストレスを負荷したラットでは、OXP投与による機械的アロディニアが非ストレス負荷群に比べて早く発現し、疼痛閾値の有意な低下が見られた。一方、オキサリプラチンを投与し神経障害を発現したラットは非投与群に比較し、ストレススコアの上昇は見られなかった。つまりこのモデルは疼痛によりストレスは上昇せず、ストレス負荷により疼痛が上昇するモデルとして有用であることが明らかとなった。また、オキサリプラチンによる疼痛には、脊髄におけるカルモジュリンキナーゼII(CaMKII)のリン酸化増加が関与することが明らかとなった。抗精神薬であるトリフロペラジンは、CaMを抑制しオキサリプラチンによる疼痛を抑制することが明らかとなった。よって、ストレスによる疼痛の増強にCaMKIIが関与している可能性も考えられる。
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