研究概要 |
SIRT1はヒストンの脱アセチル化をおこないエピジェネティックス調節に関与し、また、特定の転写因子等を脱アセチル化して、細胞分化や細胞生存などに働く。これまでにSIRT1がco-inhibitorであるNcoRと結合して幹細胞を未分化に留めるNotchの機能を抑制し神経幹細胞から神経細胞への分化を促すことを明らかとした。本研究ではSIRT1がNotchの機能を助けるco-activatorのp300を脱アセチル化して、p300ユビキチン化によるp300の分解を促進する機能を見出した。一方、SIRT1は幹細胞のほか神経細胞にも強く発現する。SIRT1を各種阻害薬やSIRT1-siRNAによりそのSIRT1を抑制するとPC12神経細胞のneuriteの形成が阻害されることを初めて見出した。SIRT1ノックダウンはneuriteの伸長を抑制し、1つの細胞からでるneuriteの数には影響しないことを明らかとした。一方、SIRT1阻害は神経細胞の移動を抑制する。そこで、神経細胞同様に神経堤由来の細胞であるmelanoma B16F1細胞がSIRT1を細胞質に発現して、神経細胞同様にSIRT1阻害によりその細胞移動が抑制されることを見出した。モデル実験系としてB16F1細胞を用いて検討した。B16F1細胞ではSIRT1が細胞移動時に移動方向に細胞が作るlamellipodiaという突起部分に集積局在し、この部分でlamellipodia形成に必要なフォスファチジール(3,4,5)3リン酸(PIP3)の量を維持することに働いていることを、PIP3レベルを測定できる蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)法を用いて初めて明らかとした。SIRT1をノックダウンするとlamellipodia形成自体が抑制され、細胞の移動ができなくなる。同様の仕組みは神経細胞にも存在しているものと考えられた。
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