何らかの原因による左室駆出率 (LVEF)低下に伴う従来の収縮期心不全に比べ、LVEFが保持される拡張期心不全は、収縮期心不全同様予後不良にもかかわらず現時点において有効な治療法は確立していない。高血圧が重要なリスクファクターである拡張期心不全において、アンジオテンシンIIという昇圧物質の慢性投与による昇圧作用により約2週間という短期間に拡張期心機能障害を呈する動物実験モデルを確立した(特許出願準備中)。 昇圧剤による高血圧を維持させたまま、消炎剤(COX抑制剤 セレコキシブ、インドメタシン)を投与したところ、高血圧初期段階(昇圧剤投与から7日まで)に投与されたCOX抑制剤ははむしろ拡張能を悪化させた。次に高血圧病態を呈してから4日目以降(アンジオテンシンII投与開始後1週間後以降)では、コントロール群に比して変化を認めなかった。レニン・アンジオテンシンシステム抑制薬の1つであるアンジオテンシン変換酵素阻害薬は、アンジオテンシン変換酵素を介してCOX2分泌を刺激する。加えてこの実験モデルでは、浸透圧ポンプを利用してアンジオテンシンIIを投与しているため、アンジオテンシン変換酵素阻害薬を投与しても血圧に影響を及ぼさず、アンジオテンシン変換酵素を介してCOX2分泌の作用を確認できる。興味深い事に、アンジオテンシン変換酵素投与群は、アンジオテンシンII単独投与と同等の高血圧を示し、心肥大を呈したが、拡張期心機能障害は認めなかった。このメカニズムとしてアンジオテンシン変換酵素によるCOX2分泌による心臓保護効果の可能性が示唆された。この効果は、実験後半でのアンジオテンシン変換酵素投与では認められなかった。このことは、高血圧初期段階に投与されたCOX抑制剤による拡張能悪化と一致する。COX2分泌を誘発することは、心臓拡張障害への予防効果があることが示唆された。
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